いくら対策を施しても、想定どおりにいかないのが世の常です。何かを利用するときは、メリットデメリットをきちんと理解して納得することが肝要です。
夫の相続対策を検討している中で、保険会社から次の提案を受けました。これはその次の相続(二次相続)も見据えて、妻である私も生命保険に加入した方がよいというものでした。この提案はどのような効果があるのでしょうか?
現在、私は医療保険(死亡保障なし)に加入していますが、死亡保障の保険には加入していません。
- <家族構成>
- 夫80歳、妻70歳、子2人(独立して別生計)
- <提案内容>
- ①次の保険に加入
- 保険種類・・・一時払終身保険 1,000万円
- 契約形態
契約者(保険料負担者)…夫
被保険者…妻
死亡保険金受取人…夫
- ②夫が妻より先に死亡(相続発生)
①の契約内容を変更- 契約者…夫→妻
- 死亡保険金受取人…夫→子
- ①次の保険に加入
この提案内容どおりいけば、ご主人の相続時、あなたの相続時、各々相続税を軽減できる可能性がみられます。ただし、この可能性には“前提”があります。“前提”どおりにいかなかった場合の問題点も理解しておかれるとよいでしょう。
今回の提案内容に基づいた保険の課税関係や、メリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。
夫の相続(一次相続):
- 「生命保険契約に関する権利」として、夫の相続財産となる。
- 相続発生時の解約返戻金相当額が相続税の課税対象となる。
妻の相続(二次相続):
- 死亡保険金が、妻の相続財産とみなされる。
- 死亡保険金のうち、非課税限度額を超える部分について相続税の課税対象となる。
- 非課税限度額とは、“生命保険の非課税(500万円×法定相続人の数)”で計算した金額。
法定相続人とは、相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。
ご相談のケースで子2人が相続人であれば、「500万円×2人=1,000万円」が非課税限度額となります。
このプランの有用性は、主に次のとおりです。
- 夫が一時払終身保険の保険料負担者となることで、妻自らが保険料を負担することなく、妻の相続時の資金と相続税計算上の非課税限度額が確保できる。
- 一次相続発生時、解約返戻金相当額が払い込んだ保険料を下回っていれば、現金で保有しているよりも夫の相続財産の評価額が下がる。つまり、相続税の対象となる金額が減ることで、相続税が軽減できる。
ただし、このプランどおりにいかなかった場合、注意が必要です。例えば、次の点です。
- 妻が夫より先に亡くなった場合、夫が受け取る死亡保険金は相続税ではなく、所得税が課税される。つまり、想定どおりのメリットを享受できないことになる。
- 内部環境や外部環境の変化により解約しなければならなくなった場合、経過期間によっては返戻金が払込保険料を下回り、元本割れすることがある。
将来の相続を考えたとき、その次の相続まで考える必要があるのかどうかは、対象者の財産の保有状況、家族構成等を考慮に入れる必要があります。さらに、想定どおりにいかなかった場合の問題点を洗い出し、リカバリーについてもあわせて検討されておかれるとよいでしょう。相続対策に関することは、当事務所へご相談ください。
<参考条文等> 相法3、12、財産評価基本通達214 他
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