今回は相談事例を通じて、意思確認ができない場合の相続登記の必要性について、ご紹介します。
数年前に父が亡くなり、分割協議により、父の所有していた不動産を母が相続しました。母はその際に相続登記をしておらず、現在もそのままの状態ですが、最近認知症が進行したことで、意思の確認が難しくなっています。
母が亡くなる前に相続登記を済ませた方がよいと思ったのですが、どのように進めたらよいでしょうか。
本件では、遺産分割が成立しており、母が当該不動産を取得することで実体法上の権利関係は確定しています。ところが、登記申請はその申請人の意思を前提とするため、母ご本人が登記申請をする意思表示ができない場合には、登記はできないことになります。
ご本人が意思表示できないのであれば、後見人を付すなどして、ご本人の代わりに意思表示をしてもらうことが考えられますが、本件でそのためだけに後見人等を選任するのは、いささか躊躇します。後見人は登記以外の日常的な財産管理等もするため、きっかけが登記であっても、かなり煩雑で厳格な手続きをし続ける必要があるためです。
本件では、既に権利関係は確定しているため、何としてでも母名義に登記を変更しなければならないと考えるのではなく、本当に必要に迫られた際(例えば当該土地の処分や担保設定など)に行うこととして、そのままにしておくことも、現実問題として致し方ないのではないかと考えます。
なお、仮に母ご本人に相続が開始した場合であっても、既に母が取得することで成立している遺産分割は有効であるため、名義が父のままであったとしても、当該不動産は母の相続財産として計上し、登記も、その際に母の相続人により
父 → 母 → 母の相続人
の順に変更することになります。
本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。